「企業は人ありき」
変化を楽しめる仲間と、面白いものを絶えず追求しつづける

型にはまった仕事が苦手な自分を、10回の転職が教えてくれた。

システム開発の会社「リソラ」を経営する石川靖さん。産業カウンセラーの資格を持ち、ITの仕事だけでなく、産業カウンセラーとしても活躍する。プロジェクトマネージャーとして人の話を聴くのがうまく繊細なマネジメントをすると定評のある石川さんの今に至る軌跡とこれからの話をきいた。

ープログラマーを仕事に選んだのはなぜですか?

大学の頃、友人から依頼を受けてアルバイト感覚でホームページを制作していたんです。

大学がつまらなくてほとんど行っておらず、ホームページを作るアルバイトに明け暮れていました。大学を中退して、印刷会社のIT部門に配属されプログラマーをしたのがスタートです。

ーえ、大学生の時にホームページを作る仕事をしてたんですか?

大学に入った頃、親父がパソコン買ったんです。ウィンドウズ95が出た頃です。自宅のパソコンで遊ぶのが楽しくてたまらなかった。プログラミング言語を入れると、ただの文字がすごくきれいに見えたり、動きが出たり色が変わったりするのが面白くてね。誰にも教わらず、本を読み実践し、独学で身につけました。

ー好きこそものの上手なれ、ですね。

はい。友人から「パソコン好きなら、ホームページを作る仕事があるよ」と仕事を紹介されました。そのアルバイトが楽しすぎて、大学は5年で中退。就職するまで、4件ほど会社のホームページを作らせてもらいました。ホームページ制作が面白かったので、地元、神奈川の印刷会社に就職し、IT部門に配属されました。今みたいにパソコン1人1台はなく、3人に1台。かわるがわるやってましたね。

ー印刷会社のIT部門ですか。「IT革命」とか言っていた時代ですね。

はい。5年いた間に、僕のいたIT部門はすごく成長して1人1台パソコンが支給されたりと、それなりに昇給も成長もして楽しかった部分はありました。一生懸命やってたんですが、なんというか「こうなりたい」と思える上司が全くいなかったんです。クリエイティブじゃないし、流れ作業みたいな受け身の人も多かった。仕事そのものは楽しかったけど、人間関係で刺激が少なかった。

ー自分の成長に会社が追いついてなかったのかもしれませんね。昇給、成長以外で楽しかったことはありますか?

メンバーと一緒に、物事を進めていくのが楽しかったですね。チームビルディングに興味が湧いたのも、ここでの体験がきっかけだったと思います。でも、型にはまった仕事にしだいに疑問が湧いてきて、辞めました。その後、会社を10回、転職してるんです。

ー10回!それは多い。転職の理由は?

会社組織が嫌いだからですかね。会社内って、ゴマすったり派閥があったり出世争いがあったりするじゃないですか。自分のポジションを守ることにしがみつく人がいたり。そういうのを見るたびに嫌だな、と思って辞めました。

ー転職すると、同じようなことを毎回次の会社で感じるわけですね。
その中でいいなと思える会社はありましたか?

ありました。友人から誘われたベンチャーの会社で2年半くらいいたんですが、自由な社風が好きでした。自由がゆえに守られるものもないけど、変なしがらみもなく。派閥もなく。でも、残念なことに親会社に敵対的買収されてなくなっちゃったんです。その頃からPM(プロジェクトマネジメント)に関わって、お客さんのお困りごとを伺い、「ではこういうシステムを導入しましょう」と提案し、システムを開発する。スケジュール決めてメンバー集めて。ワクワクする自分がいました。

ー管理されるのがキライな自由人なんですね。

最後にいた会社も、急成長しているさなかに入って、チームメンバーを作って、常にそこには人がいて。僕は人に興味があるんだなと思いました。

ーその後、起業されたんですね。

はい。人間関係がうまくいかなくて辞めた会社もありますが、チームメンバーやお客さまが成長し、成功するのを見届けるのが好きなんだな、と起業して気づきました。実は僕、サラリーマンしながら起業したんです。

ーサラリーマンしながら起業とは?

会社を辞めたときになぜか僕に4人ついてきちゃって。お客さんもいないうえに何やるかも決めていないのに。そんな僕に「ウチにこい」と5人全員まとめて引き受けてくれた会社があったんです。そこで働きながら起業しました。2015年です。

ー石川さんについていけば大丈夫、みたいな安心感があったんでしょうね。きっと、この人はうまくいく、と。

転職回数が多い一つの理由は、社長との価値観が合わなかった点が大きいですね。

ー例えばどんなとことで社長と合わないんですか?

例えば100点取る人間4人で仕事するより、80点取れる人5人で仕事したい。同じ400点です。80点しか取れない人を、否定する必要は、ないじゃないですか。無理なら、5人で400点を目指せばいい。
優秀な人だけで固めるのではなく、やる気がある人や、少し出来ない人も加えて成長していくプロセスが好きなんです。効率重視な会社は苦手ですね。あとやり方を支持されるのも嫌いです。

「お前は効率を求めなさすぎる」と上司から非難されましたが、ちゃんと終わらせればいいでしょ?と。伸びしろを見守ってくれる企業が少ないと感じますね。
なら、僕が作ろう、と。

ーいいですね。私はそんな考え方の経営の方が好きです。

会社を2つ持っていますが、どちらも「80点の人でも大丈夫」という、成長のプロセスごと楽しむような企業体質です。みんなで一緒に仕事をするのが好き。どんどん人を巻き込みます。楽しいだけではダメ、とはいえ、お金を稼ぐだけでもない。それぞれに高め合って、出来ない人が出来るようになる過程が嬉しいですね。

実は、全く違う業界で働いていた女性がウチに入社して、最初はITスキルが無く苦労していたのですが、今はバリバリやってます。結婚し子供が生まれても再び戻れるようなスキルを身につけたいと入社したんですよね。まだ技術も何にも知らない彼女に教えて、いろいろ出来るようになって。そういうのが嬉しいですね。起業した一番の喜びです。

ー経営者冥利につきますね。ところで、米国PMI認定PMP(Project Management Professional)という資格をお持ちですね。

はい。この資格を持っている人はそんなに多くはないのですが、マネジメント面で困った時のバイブルに出会えた感じです。知らないと知ってるのでは大きな違いがある。

例えば、ゴルフは教わらなくても出来ますよね。ドライバーで打てば飛ぶ。でも変なスイングだと、伸びませんよね。そんなときに参考書やバイブルにそってやれば上手くなる。そんな存在です。プロジェクトマネジメントのすごいところは、業種に関係なく使えるところです。ITの仕事だけではなく、どんな仕事にも共通して使えます。

「大丈夫です。」は大丈夫じゃない。
チームビルディングの要は、話を聴くこと。

ー産業カウンセラーの資格をお持ちですね。

30代前半で、仕事が忙しすぎてメンタル不調になったのがきっかけです。半年ほど休職して、そのときに産業カウンセラーの方にサポートしていただいたんです。心療内科で紹介されたカウンセリングルームで、数人のカウンセラーと面談し、フィーリングが合う人を選んで3ヶ月ほどセッション。復職プログラムなどもあり、産業カウンセラーってすごいな、と思ったんです。メンタル不調だった頃の体験が大きいですね。

ーお辛い経験をされたんですね。でも、プラスに昇華されてよかった。産業カウンセラーの資格は会社やチームにどう活かされていますか?

人の話を聴くのに徹するようになりました。今思えば、昔の僕は人の話をちゃんと聴いてなかったなと、思います。人の痛みがわかってるようで、わかっていなかった。たとえば部下が、ある日急に「辞めます」と言ってきたりするんです。そこに至るまで、段階があったはずだろうに、そこを汲みとれていなかった。今はできるだけ部下の話を聴くようにし、相談しやすい環境づくりを目指しています。チームビルディングをうまくいかせるために大事なのはコミュニケーション。人間同士の問題点の9割以上はコミュニケーション不足だと思います。

ー確かにそうですね。

「大丈夫?」って訊くと、たいてい「大丈夫です。」と返ってきますよね。
大丈夫じゃないんですよ、絶対。

ー確かに。言葉だけでなく、空気を読み取る力も必要ですね。

つねに変化し続けたい。「変化する自分」を続けたい。

ー石川さんのこれからの展望は?

今、新しい事業やプロジェクトをどんどんしかけています。めちゃくちゃ動いてる状況です。それをずっと続けたいなと思っています。人と人との緩衝材になったり、プロジェクトを指揮したりと、活動は多岐にわたります。まわりの人に求められるままに、常に変化している感じですね。

ー変化し続け成長し続ける自分でないといられない、最初の会社を辞められた時から変わらないのかも。

常に変化していきたいという気持ちは変わらないので、その姿勢でずっといくと思います。もし仮に、お金なくても暮らせるのなら、ずーっと人の話を聴いていたい(笑)。カウンセリングルームを作りたいですね。今の世の中、「助けてほしい人」「話を聴いてほしい人」がたくさんいます。カウンセリングは、人のマイナスの状態をゼロにする仕事です。その人の弱いところ(マイナス)をゼロに戻してあげると、会社の生産性が上がる。

それは企業からも求められています。産業カウンセラーやキャリアコンサルタントが登録して一人に一人のカウンセラーをつけ、AIを使って。月額100円とか200円で利用できる「カウンセリング」ビジネス。

ーあら、新ビジネスの話ですか。これからの時代、IoTやAIを使って新しいビジネスがどんどん出てくるんでしょうね。

何でも話せる人がいるだけで、めちゃくちゃ変わりますよ、世の中。
話を聴いてもらうだけでも、人って変わりますよね。

ー最後に、好きな言葉はなんですか?

「継続は力なり」です。今を続けること。
「変化する今を続ける」姿勢は、これからもきっと変わらないと思います。

ーありがとうございました。


【取材後記】
成長のスピードが早い人なんだろうな、と思った。「変化し続けることを楽しんでいる」という石川さん。変化し、成長を続ける石川さんにとって、ひと所に止まっている人に興味が持てない。それが10回も転職した理由なのかも。そんな石川さんにも弱点があった。30代半ばでの挫折。心療内科に通い、半年間の休職を余儀なくされる。ところが、危機もプラスに転じ、産業カウンセラーの資格を取り仕事に活かす。ITの知識に傾聴力とPM(プロジェクトマネジメント)という3つの強みを持ち、新しいことに挑戦し続ける石川さんのこれからに期待したい。

村山由香里
rimun rimu labo代表

元株式会社アヴァンティ編集長兼代表取締役。25年続き、福岡、北九州、熊本で発行した情報誌『アヴァンティ』では、「働く女性を応援する」をコンセプトに地元女性の生きる働く「いま」を取材し、時代の息吹を伝えた。また、2010年より5年間、福岡県男女共同参画センター館長として、次世代女性リーダー養成講座「ふくおか女性いきいき塾」の開催や、センターと経済界の連携、男女共同参画をわかりやすくWEBやSNSで発信など先駆的な取り組みをし、現在は、講演、執筆活動に加え「天神キャリア塾」をスタート。その人の魅力を引き出すインタビューで良質なコンテンツの創造に尽力している。